SS投稿スレッド@エロネギ板 #12

1 :名無しさん@初回限定 :2007/02/04(日) 00:43:38 ID:zQfGjkNp0

エロゲー全般のSS投稿スレです。あなたの作品をお待ちしています。
エロエロ、ギャグ、シリアス、マターリ萌え話から鬼畜陵辱まで、ジャンルは問いません。

そこの「SS書いたけど内容がエロエロだからなぁ」とお悩みのSS書きの人!
名無しさんなら安心して発表できますよ!!

  【投稿ガイドライン】
1.テキストエディタ等でSSを書く。
2.書いたSSを30行程度で何分割かしてひとつずつsageで書き込む。
 名前の欄にタイトルを入れておくとスマート。
 なお、一回の投稿の最大行数は32行、最大バイト数2048バイトです
3.SSの書き込みが終わったら、名前の欄に作者名を書きタイトルを記入して、
 自分がアップしたところをリダイレクトする。>>1-3みたいな感じ。
4.基本的にsage進行でお願いします。また、長文uzeeeeeeと言われる
 恐れがあるため、ageる場合はなるべく長文を回した後お願いします。
5.スレッド容量が470KBを超えた時点で、
 ただちに書き込みを中止し、次スレに移行して下さい。

保管サイトはこちら
http://yellow.ribbon.to/~savess/

過去スレ >>2-4辺り

201 :遥かに仰ぎ、麗しのSS『Shall we dance?』 :2007/03/27(火) 03:09:39 ID:bDxQuBjO0

『? ……まあ一億光年程譲って踊れる様になったとしましょう。しかし、踊りにはパートナーも必要ですよ? やはり土俵にすら上がれません』

 甲斐性無しの司さんが、パーティーでパートナーを捕まえられる筈も無し……と溜息を吐く天使栖香。

『なら、パートナーとしてあたしがセンセと一緒に行けば一件落着、大勝利っ!!』

『……その根拠の無い自信、一体どこから湧いて出てくるのですか?』

 ニシシとイヤな笑みを浮かべる悪魔美綺を、天使栖香がジト目で突っ込む。
 すると、悪魔美綺は自信満々に言い放った。

『だ、い、じょ〜ぶっ! その場でセンセがあたしの婿だと発表すれば、注目の的間違いなしっ!』

『なっ!?』

『あたしはセンセと結婚できるし、センセはみやびーが耳でピーナッツを食べる所を見られるしで一石二鳥! ついでにAIZAWAの将来も安泰!』

『司さんが経営者では、将来安泰かどうか甚だ疑問ですが…… そんなことより姉さま! 謀りましたねっ!?』

『ふふふ…… 君は君はいい妹であったが、君の父上がいけないのだよ』

『姉さま…… それ、流石に洒落になりませんし、私の父は姉さまの実父でもあるのですが……』

202 :遥かに仰ぎ、麗しのSS『Shall we dance?』 :2007/03/27(火) 03:12:17 ID:bDxQuBjO0

『あれ?』

 チャンチャン。


 天使と悪魔は言うだけ言った挙句、勝手にオチを作って消え去ってしまった。
 ……まああくまで司の脳内での話ではあるのだが。やけにリアル過ぎて怖いものがある。

「とにかく、どうにかして踊れる様にならないと……」

 司は冷や汗を拭うと、善後策を考える。

 が、それには誰かに踊りを教えて貰わなければならない。
 ……とはいえ、ダンスはかなり体を密着させる。余程親しくないと頼めない。
 司の頭の中に、親しい生徒が次々とリストアップされては消えていく。

 栖香は? ……駄目だ。きっと散々説教された挙句、『勝負を取り下げて来て下さい』と放り出されるのがオチだろう。
 美綺は? ……駄目だ。後でどんな要求をされるか判ったものではない。仮に勝てたとしても、きっと負けた場合とさして変わらない運命だろう。
 みやびは? ……勝負相手じゃあないか、全然ダメだ。
 なら……後、誰がいる?
 そこで閃いた。

 ――そうだ! 殿子ならっ!

 殿子なら、『しょうがないなあ』と言いつつも、最終的には下心無しに助けてくれるハズだ。そうに決まってる。
 そう思いつくと、司は殿子がいるであろう裏山目掛けて駆け出した。

「ド、ドラ○も〜〜んっ!!」

203 :遥かに仰ぎ、麗しのSS『Shall we dance?』 :2007/03/27(火) 03:14:21 ID:bDxQuBjO0

 投下終了。

204 :名無しさん@初回限定 :2007/03/27(火) 03:43:11 ID:zRVl8r3v0

わっふるわっふる

205 :名無しさん@初回限定 :2007/03/27(火) 23:13:21 ID:n5HQpW4s0

原作の再現度高いなあ……。
早くづづきを!

206 :名無しさん@初回限定 :2007/03/28(水) 01:43:32 ID:vJLgUPaB0

>>203
乙! 続きを楽しみにしてますー

>『ふふふ…… 君は君はいい妹であったが、君の父上がいけないのだよ』
>『姉さま…… それ、流石に洒落になりませんし、私の父は姉さまの実父でもあるのですが……』
ワロス(w みさきちがすみすみの父親に対して言うと本当に皮肉になってしまうな(ww

にしても、殿子は確かにダンススキルはありそうだけど、鏡花でも良さそう。

207 :甘くないの者です :2007/03/28(水) 09:17:20 ID:ZtNiriUb0

 205様、206様、有難うございます。

>早くづづきを!
 有難うございます。続きは近い内に……

>鏡花でも良さそう。
 自分もそう思います。でもまあ、これ殿子一位記念(遅っ!)ですので。

 このシリーズの司は甘くないのUMAと比べて非常に活動的なので話が作りやすいですね。
 ネタとしてはこの『Shall we dance?』の他にも『風雲みやび城』『取締役 滝沢司』なんてのがあったりなかったり……

208 :名無しさん@初回限定 :2007/03/28(水) 10:36:44 ID:GDyB2m+o0

> 風雲みやび城
最後は青色の水鉄砲合戦とな?

209 :車輪の国、悠久の少年少女 :2007/04/08(日) 18:55:24 ID:T4aWbUvf0

法月編エンド

ここまで、か――。
法月自身もそう思っていたし、アリィに至ってはそれは確信だった。
警備隊の銃口が至近距離から狙いを定める。
その先にあるのは勿論――。

「な、んだと…っ」
アリィの表情が歪む。

「…どうしてここに?」
静かに法月が問う。

「いや、そりゃこっちの台詞ですって先生。
 弱小レジスタンスの記念すべき決起行動の日に
 連絡なんてくれるもんだからバレてんのかと思って
 ビビっちゃいましたよ。いやあ、参った参った。」

全ての銃口は法月将臣を通り越してアリィ・ルルリアント・法月に向けられていた

何が起きている?
何処で間違った?

目深に被った帽子の鍔を指先で持ち上げて陽気そうに男が口を開く。
「まさか先生の口から「最愛の人」なんて単語が聞けるとはねえ。」
リーダー格らしいその男が法月の肩をバンバン叩きながら
朗らかにまくし立てる。

明らかに場にそぐわない。
こんな事があってはならない
アリィが呻くように呟いた。
「森田…賢一…っ!」

210 :車輪の国、悠久の少年少女 :2007/04/08(日) 19:06:55 ID:T4aWbUvf0

「あっ、お姉ちゃん?そっちはOK?」
奇襲は成功したといっていいだろう。
収容所の解放、囚人の救出、用意したトラックに分乗し、これより先はお互いの連絡を絶つ。
囚人のリストは樋口璃々子がデータバンクを破壊したとのことだ。
これによりもう正確なリストを作ることは困難だろう。

――計画は最終段階に近かった。

小刻みに揺れる車内の中、
もたれかかってくる女性の
肩を抱き沈黙を守っていた。

顔にかかった一筋の髪を指で掬った。
「…」
お互い、変わり果てたと思っていた。
それでもあの群集の中、一目でお互いを見つけた。
一瞬、逡巡したのは私だったか、彼女だったのか
だが次の瞬間には駆け出していた。

欠けた二つが一つに戻ろうとするのは当たり前のことなのだ。

抱きしめて抱きとめた。
済まない。と謝罪の言葉を繰り返した。
彼女はいいえ、いいえ。と私の謝罪の度にそれを打ち消す。
握った手はただただ温かかった。

211 :車輪の国、悠久の少年少女 :2007/04/08(日) 19:07:42 ID:T4aWbUvf0


抱いた肩が細い。繋いだ手は荒れていた。
それがなんだというのだろう。
髪に艶は薄く、血色も決していいとは言えなかった。
それがなんだというのだろう。
こんなに美しい女は後にも先も会うことはあるまいと
もう二度と失うまいと、
握る手に力を込めた。
宝物のようだ、と思った。

疲労と安堵から深い眠りに落ちた彼女を抱いている私の横に
森田がやってきた。

「その人が雑賀みぃなさん…」
「…そうだ。」
「綺麗なひとですね」
「…」
「俺のお母さん、ですよね。」
「…知っていたのか。」
「親父の残したメモリにネタ集のファイルがあったんですけど
 それにしてはバイト数が異常だったんで開けてみたんですよ。」

「親父の手記でした。」

「…そうか。」
それは闘争と挫折の歴史。
何度も衝突し、時には殴り合い、笑いあい
共に道を歩み、袂を分かち
自らの手で死に追いやった男の年代記――。

212 :車輪の国、悠久の少年少女 :2007/04/08(日) 19:10:10 ID:T4aWbUvf0

全く、柄にもなく
ひとしきり三郎の思い出話に興じた後、切り出した
「これからの手筈は?」
「先生には一旦、国外に脱出していただきます。」
「最外郭からこの組織の指揮をお願いしたい。」
「お前は?」
「名前を変えて、ね。俺は表の世界に出ます。」
「誰かがやらなきゃいけない、この国に正面からぶつかって
 どれだけ時間がかかってもいい、この国の――。」

あの日の誓いが静かに蘇る
――…変えてください
いいだろう、やってみせろ
この情けない父に代わって――、お前が

「ルールを、変えるんだ。」

「俺は地道に政治活動をしながら政財界に食い込みます。」
「……」
「それまで先生には反社会組織として俺が動きやすいように
 現状に揺さぶりをかけ続けてもらいたいんです。」
「本当なら次期哲人候補の先生にやってもらう筈だったんですがね。」

「お前だけは…いや、お前くらいは安らかな日々を送らせてもいいかとも
 思ったのだがな」
――我ながら、らしくもない事を、と思う。

「ああ、それは俺も思いました、ははは。」
「あんなに辛い思いしたじゃん、何度も泣いて、逃げ回って、死にかけて
 でも死ねなくて、やっと手に入れたささやかな幸せにすがって
 余生を静かに送ったってバチなんか絶対当たらないって」

213 :支援 :2007/04/08(日) 19:23:12 ID:eBUvV57y0

支援?

214 :車輪の国、悠久の少年少女 :2007/04/08(日) 19:34:48 ID:T4aWbUvf0


はははと乾いた笑いが車内に満ちて、消えていった。

「…けどね、無理だったんですよ」

「理想を貫いた男と、」
「親友を救う為にその意志を折った男と、」
「どんなに自分が傷ついても子守唄を歌い続けくれるような女に拾われて、名前をつけられて、
 育てられた子供がそんな風に生きられるワケがないじゃないスか。」

「あっ、それとね。なっちゃんたちも手伝ってくれるって」
「一緒に世界を変えようって」
「だから俺は大丈夫なんですよ。」

「…そうか」

御伽噺。だと思う。法月自身が散々翻弄された現実という化け物が
これから彼に襲い掛かるのだ。
――だが、それでも
その可能性を信じずにはいられない
あの向日葵の少女達。
それに支えられたこの男の力を、その名を

森田賢一、樋口健を――。

215 :車輪の国、悠久の少年少女 :2007/04/08(日) 19:35:44 ID:T4aWbUvf0

夜明け前には港につけた。
ここまでは計画通りだが
追っ手はもうかかっているだろう

この慌しい波止場で密航船を見極めるのは困難だろうが
同時に時間がないのも変らない事実だ。
アリィ・ルルリアント・法月を相手に油断は禁物――、だ。

船員と打ち合わせをすませた森田が駆け寄ってきた
「ここでお別れです。」
「あ、健、ちゃん…」
みぃなさんがふらりと前に出て声をかけようとしたが
それを森田は制する。

行け。と
振り返らず今度こそ
まっすぐ掴んでくださいと
幸せになってください。と
これが子が親に出来るたった一度きりの孝行なのだと
その瞳が語る。

緩く頭を振った彼の口から
願いのような呟きが聞こえた。
「大丈夫。」
「生きていれば、いつかまた会えますよ。」
「…そうだな。」

216 :車輪の国、悠久の少年少女 :2007/04/08(日) 19:36:41 ID:T4aWbUvf0

顔をあげて私と視線を交わす
恐らく、もう会うことはないだろう。
これが最後、
だからこれは宣誓。
必ずやり遂げてみせるから
どこかで見ていてくださいと
それまで死ぬんじゃねえぞと
お互いに向けての誓いを今、交わそう。

「…先生、俺はね
 胸を張ってあの向日葵畑を歩くんです。
 堂々と太陽に向かうあの象徴に負けないように、
 向き合えるように、だから――、」

「絶対に負けない」

その決意と裏腹なまでに晴れやかな笑顔に気圧された。

 ――ケンちゃんがだぁいすきなんですっ

暗く冷たい牢獄の中――、
特別高等人、法月将臣を前に一歩も退かなかった少女の面影が重なる
それは畏怖にも近く、
自分を超えるものを前にかける言葉など多分、もうないのだろう。

「…ああ、お前なら――。」

217 :支援 :2007/04/08(日) 19:40:26 ID:uy4A+xhA0

支援?!

218 :車輪の国、悠久の少年少女 :2007/04/08(日) 19:46:35 ID:T4aWbUvf0


水平線から朝陽が昇る。車輪の国の一日がまた始まる、
彼は去る、
太陽の光を背中一杯に浴びて堂々と。

そう、それはあの村の向日葵達のように。

やがて雑踏に紛れて消えたその背中を
眩しい、と思っていた。
それは法月将臣がたった一度だけ見せた父親の顔だったのかも知れない。

「ようやく一流、だな 健。」




       end





以上です。またエロ入んなかったよほほーい。
支援ありがとうございました。

219 :いつか、届く、あの空に おまけ補完 :2007/04/08(日) 21:51:48 ID:ja0GoRTF0


――矛盾、があった。

俺の垣間見たいくつかの物語は時系列がバラバラでとりとめがなく、
けれど。

それは確かに起きた事実で、
そして「今」という結果を補完するかのように
起こり得ない事象を全て俺の目の前に並べたてる。

それは満漢全席のようでもあり、
――いや。
どちらかといえばそれは日常という料理を補完するために
和洋中全ての食材と技法とが混然と半ば強引に
殆ど無理矢理にひとつの料理に集約した形と言おうか

そう、あのカレーのように――、

「…よりによって、例えで思い浮かぶのがアレとはな…。」
あの日、生と死の境界線を潜り抜けた感覚が胃を襲って
俺は脇腹が軋むような幻覚に身をくねらせた。
「難しい顔をしているな、お主人ちゃん。
 考え事か?」
「ふたみ――。」
ひょいと。
横から大きな瞳が覗き込む。

唯井…いや雲戌亥ふたみ。俺の嫁。
この空明市を統べる豪族、雲戌亥総家嫡流。

…女の子つかまえて摘流っておかしいな。

220 :いつ空おまけ補完 :2007/04/08(日) 21:56:40 ID:ja0GoRTF0

とにかくまあ炊事、掃除、洗濯と家事と名のつくものなら
なんでもござれのエキスパートだ。
俺の中でのあだ名が「家事中毒者(ジャンキー)」であるのは
勿論、内緒だが。

「策は聡明であるが故、筋道の通っていない現状を受け入れかねているのでしょうな。」
「此芽、って――。」

呼応するようにかけられた反対からの声に顔を向けると――、
近い近い、危うく唇が触れそうになって俺は少し後ずさる、

「むー、そんなに露骨に避けなくてもよいでしょう?」

整った顔立ちの少女が頬を膨らますといきなり年齢が下がって見えた。
いや、年相応という意味ではこっちが本来の顔なのかも知れない。

桜守姫此芽。俺の婚約者。
空明市を二分する勢力のもうひとつ、桜守姫家の現頭首。
長年に渡る両家の確執に対して雲戌亥ふたみと共に
真っ向から「今後一切の争いを禁ず」の方針を打ち出した。
桜守姫の人間の性格上それは難航したに想像は難くない。
だが、彼女達はやってのけたのだ。
それはもう見事に有無を言わせぬ完璧さで。

…その裏で何が起きたかは俺の想像の範囲を超えて余りある。
て、いうかあんまり考えたくないんだよな、うん。
なるべくなら人の暗黒面には立ち入らずに生きて行きたいと思っているわけで。
「いや、避けたわけじゃないけどさ」
苦笑を交えつつ、俺は――。

「コノは馴れ馴れしいからな、人と接する時は適度な距離を保つのは礼儀だぞ。」
「ちょっ!」

221 :名無しさん@初回限定 :2007/04/08(日) 22:00:21 ID:ja0GoRTF0

やんわりその辺を説こうとしてる時に大先生が相変らず鉈で振り下ろすような
言葉という名の暴力を振り下ろした。
OK、ふたみ。お前の性格はわかっちゃいるがそのへんにしとこ――、

「そ、そんな妾はそんなつもりでは――。」
「まず、それがいけない。」
「…え?」
びしり。と人差し指を此芽にむけるふたみに
此芽がきょとんと、大きな瞳をさらに見開く。

せんせー。人を指差すのはマナー違反じゃないんですかぁー。

「そもそもだな。「妾」というのは古語で「結わざる髪」を表すもので
 まとまりのない髪が顕すものは即ち蛇。
 その起源は大きな、または定かでない危機、災厄を表す。
 つまりだな――。」

「なっ、わ、妾が災厄そのものであるというのかえ!?」
「いやいやいや、ふたみ。その辺にしとこうぜ、な?」
「む、お主人ちゃんがそう言うのなら
 私としてもこれ以上追求するつもりはないのだが。」

そう、ふたみは別に此芽をどうこうする気はない。
ないのだが――遅かった。
返す返すも遅すぎた。

おそるおそる振り向くとそこには
「わ…妾が…さ、災厄そのもの…そんな…」
瞳から意志の輝きをなくした少女がうわごとを繰り返しながら
茫然とした姿で宙を仰いでいた
「わああああああっ!? こ、此芽!? 気を確かにもつんだ!」

222 :いつ空おまけ補完 :2007/04/08(日) 22:01:53 ID:ja0GoRTF0

肩を掴んでガクガク揺するが反応がない。どうやら死体の――いやいやいや。
これはしばらくそっとしておこう
此芽なら、きっと此芽なら自己修復してくれる。

――そう信じて。

「ん?」

シャツの裾をちょいちょいと引っ張る感触に気づいて振り向くと
今度はふたみの顔が想定外の距離にあった。
心なしか頬が紅潮している。

「お、お主人ちゃんが優しいのは美徳だと思うがな、
 誰彼構わずそういう態度を示すのは
 私としてはその、なんだ…なあ? 察しろ?」
その指が俺を甘くつねる

「何ヲダヨ」

普段、あまり見せない拗ねたふたみが顔を覗かせて
胸が高鳴る。
いかん、動揺してるな、俺。
「さっくんモテモテだねえ」
今日、今この瞬間にだけはいて欲しくない人が現れた。
事態を引っかき回す機会だけを耽々と数百年狙い続けた
明日宿家頭首の登場だ。
それに呼応するかのように

「「お、お姉さま!?」」

223 :名無しさん@初回限定 :2007/04/08(日) 22:04:14 ID:ja0GoRTF0

事態の収拾に努めようとする俺の背後から更なる拡散を促す
彼女達の嬌声が響き渡る。
言わずと知れた凶悪妹コンビ、桜守姫みどのと透舞のん

「孤立無援のお姉さまに3人がかりとは…卑怯ですわっ」
「私は中立だよー。どっちかっていうと第三勢力かな」

暢気に笑う傘姉の和やかな雰囲気が口調とは裏腹に
場の空気を一層混沌へ投げ入れようとしていた。

「ほらほら策ぅ。お姉さまが着痩せするタイプだって知ってるでしょう〜?」
 後ろから鷲掴み気味にこねられたふたみの乳房がその形を淫猥に歪める
「め、妾っ、そんな激しくしたら…ふっ…く…やぁ…んっ」

ふたみの吐息交じりのあえぎ声に図らずも息を呑む。
不意に後ろから膨大な殺気を感じて
慌てて振り返ると
そこには此芽が――。
「だっ、大丈夫だ此芽!俺は小さいのもなんというかこう、
 味わいがあっていいと思っているっ」
「…それは」
ゆらり、と
此芽の影が揺れるのが見えた。
黒化は近い、それはもう限りなく。
「…それは言下に妾の胸は小さい、と言っているようなものです。」
――しまった。
「いや違うんだ。そういう意味じゃないんだ。えーとえーと…
 そ、そうそう、小さくたってほら感度とか!」

ただのセクハラ発言に陥りつつも、俺はなんとかフォローしようと
此芽の肩に手をかけようとして――、
「ほらほら、策ぅ?おねーさまったらもう、こんなだよぉ?」

224 :いつ空おまけ補完 :2007/04/08(日) 22:06:00 ID:ja0GoRTF0

「メメ!お前もいい加減にしろ…って、わああああああっ!?」

振り返ると更に目の前にふたみの乳が、ていうか乳がっ!
左右、互い違いに俺の目の前で不規則に上下していて
俺はその頂点の推移を目で追ったりなんかしちゃって――、

ブツンっ

背後でナイロンザイルを断ち切ったような鈍い切断音に恐る恐る振り返る
「こ、此芽…?」

――影が、
――影の中に現れる文字
それは桜守姫なら誰もが持つ名、
骸を貪り喰う者
誰もがひとつきりの
ひとつきりの筈のそれが
浮かんで、浮かんで、浮かんで――。

あれはヘルフィヨトル?
ゲイルスケグル?
文字すら判別できない程に重なって――。
あの御前すら容易く葬った今代のアルヴィス、その力の指し示す先は――。

  えっ 俺!?

「ええ、ええ。そうでしょうとも。
 所詮、妾ではクイには到底及びますまい。なれど…っ」
踏み抜いた地雷の安全装置はとっくにバカになっていた事に気づかないまま
足を離してしまった気分だ。
――いや、気づいてはいたんだけどさ

225 :いつ空おまけ補完 :2007/04/08(日) 22:08:15 ID:ja0GoRTF0


袖に隠した唇をきゅっと噛む此芽
いや、えっと…な、泣くほど?
「こ、此芽…?」
「…の…」
「の?」
「策の…」
「策のばかぁ――――っ!!!!!」
一気に膨れ上がった影から骸を貪り食う者共が襲い掛かる。
主に俺に向かって
死ぬ。これは死ねる。今度こそ確実にマジで余裕で、
「――っ」
覚悟を決めて目を瞑ったが一向に死が訪れる気配はなかった
恐る恐る目を開けると
泣きじゃくる少女の姿が見えた
「此芽…」
マンガのような、というか水芸のように目から涙が文字通り溢れていた。
あんな事できるんだ…
さすがは魔道師というべきか
…違うか。

「こーのーめーちゃーん」
自分のキャラを崩してまで
あからさまな猫撫で声で近づくと視線で威嚇された。
字にすると「キッ」とかその辺。
「何よ何よっ、策だって本当は胸の大きいほうが好きなんでしょっ!?」
「だからそんなことないって、機嫌直そうよ、な?」
「ああ、なんだかもう、ちきしょーっ」
「その辺にしとこうよ、怒られそうだから、な?」
後ろで傘姉が微妙な表情をしていた。

226 :いつ空おまけ補完 :2007/04/08(日) 22:10:10 ID:ja0GoRTF0

途方に暮れた俺の前で此芽を支えるように
みどのと透舞さんがその後ろについた。
正に三位一体の姉妹拳
「その構えは…!」
きっと今の俺の背後には雷光の効果が走っているはず、

「お兄様!こちらにきたら美人3姉妹のご奉仕付きですわよ!?」
「はい…?」
さあ、ついに透舞さんが訳のわからないことを言い出し始めたぞ。
何を言っているんだろうか、この娘は。

しかしそれを皮切りに
「策!こっちに来ればその…今度は…飲んであげてもいい…わよ。
 その尿以外の…ほら…」
「微妙に人の黒歴史に触れるなよ…てかなんの話になってんだ?」
「ねえ、さっくん? 私も幸せになりたいなあ」
「…この展開でそれを言うアンタは最低だ。傘姉」
最初に手を出したのはメメだったか、透舞さんだったのか、
はたまたふたみか此芽か。
ああ、気がついたら、みどのと傘姉まで参加してやがる。
傘姉にいたっては完全にはしゃいでいる。

腕やら頭やら首筋やら所構わず誰かの柔らかい感触と
微妙にそれぞれ違う女の子特有の甘いにおいに頭がクラクラしてくる。

227 :いつ空おまけ補完 :2007/04/08(日) 22:12:14 ID:ja0GoRTF0

「って誰だ、ズボンのベルト外そうとしてんのはっ!」
「ジーンズは脱がせにくいからやめろっていったでしょーっ」
「やはりお前か!」
「こ、こら。その不思議なモノは私のだぞ?」
「俺のだよ!」
「で、では妾は、だ、第二ボタンを…」
「いやそれシチュエーション違うから!」
「動いたらひき肉だよっ!?」
「誰のどこをだよっ!」
「み、巫女プレイがお望みなら甚だ遺憾ですけれども私、やぶさかでは…」
「言ってねぇー、とても魅力的な提案だが言ってねぇー。」
「うふふ、さっく〜ん」
「あああ、あんたっ、絶対面白がってるだけだろっ」

女の子特有の突起を四方から押し付けられて
五肢をそれぞれあらぬ方向に引っ張られて

甘い吐息とにおいに包まれて
薄れていく意識の向こう、
空を仰ぐとそこには満天の星。

見慣れた槍を担いだヒゲ面のおっさんが親指をグッと立てて
「坊主、うまいことやれよ!」と
日本の婚姻制度についてなんか欠片も知らないであろうそいつが
ニカっと開いた口の端から覗くこぼれた歯がきらめく星座に重なるのが見えた。

…ような気がしたけど見なかったことにしよう、うん。
「…ちったぁ空気読めよ、神様よぉ。」
それだけ呟いて、俺の意識は現実から逃避するかのように
闇へと落ちていくのだった――。

228 :いつ空おまけ補完 :2007/04/08(日) 22:13:43 ID:ja0GoRTF0


ああ、
願わくば
空には満天の星と月。
それがただのひとつも欠けない空を
いつまでもこうして見ていることができますように――。

いつか、届く、あの空に――。




…ホントに届くのかなぁ?



     end




229 :名無しさん@初回限定 :2007/04/08(日) 23:54:56 ID:D3Dfx9+K0

神が連続で光臨なされました。

……よし、ちょっといつ空買ってくる。

230 :名無しさん@初回限定 :2007/04/09(月) 00:27:32 ID:WRqCe1mq0

ごめん、ID変ってるけどいつ空と車輪同じ人です。

いつ空、全然規制かからなくてビクビクでした。
書いた時期はいつ空のが結構前だったのですがちょっと詰まってた部分があってそれきり
忘れてててん。

231 :D.C.II 〜ダ・カーポII〜茜ss :2007/04/11(水) 23:00:14 ID:bTJDDy4t0

祝、FD発売なんだけど茜ルートないっぽいんでセルフ補完('A`)
小恋ルート終盤あたりからの派生です。
 

――始めは恋じゃないと思っていた。

校庭を駆けていく彼が見える。
誤解も解けたことだし、
あとは小恋ちゃん一直線!てかぁ?
屋上のフェンス越しに彼を目で追って
これでゲームセットかなって、
胸の奥がちくん。ってした。

彼の恋を応援してたのは私だけじゃなかったけど、
それがあらぬ誤解を生んでちょっと泥沼してたから
やっぱり私はお節介してしまった。
「みんな優しいよねぇ…」
「アンタもね。」
不意にかけられた声に思わず振り向いてしまう。
物陰から声の主が姿を現した。
「杏ちゃん…」
ほう。と一息ついて銀髪の少女が校庭を見下ろしながら呟く。
「あの流れなら、ついでに言っちゃってもよかったんじゃない?」
「え〜、なんのことかなぁ。」
精一杯の強がりで余裕を見せながら私はとぼけてみせた。
「義之、好きなんでしょ。」
ぴしゃりと。いつものようなゆるゆるとした言い逃れは許さないかのように言い放たれた。
「やぁだよ。私重いのヤだもぉん。」
それでもいつものように軽く軽くかわすように

232 :茜ss :2007/04/11(水) 23:02:25 ID:bTJDDy4t0

それが私。それが花咲茜。本当は臆病で、勇気がなくて、
それでもみんなが幸せになれますようにと願って、
そしてそれとと同じくらい
彼が私に振り向いてくれたらなって思う
でもそれは叶わない。
小恋ちゃんが好きだから。
杏ちゃんにも嫌われたくないから。
だから、私は――、

「…泣いてもいいのよ?」
唐突に杏ちゃんが言い出す。
「なっ、何いってんのよぉ」
「誰もいないわ」
「やっだなぁ、できるわけないじゃない、もぉー。」
どうやってかわそうかと作り上げた笑顔のまま、
振り返ると杏ちゃんが目の前にいて、
私の頬に触れて、
私はもうそれで動けなくなってしまって、
「流してしまいなさい。」――と。
らしくもなく杏ちゃんが優しく言うもんだから、
それはあまりにも不意打ちで

233 :名無しさん@初回限定 :2007/04/11(水) 23:03:13 ID:bTJDDy4t0


「ぅ……っ」

心が――、
「…だって、どうしようもないじゃない…」
止まらない。
「小恋ちゃんが好きな男の子として知り合って、」
もう止められない。
「どうしようって相談もちかけられて…っ」
震える声を大きくする事で調子を整えようとして
「小恋ちゃんなんか私、信じきっててさぁ…っ」
心が――零れた。

いいかな?
いいのかな?
…いいよね?

「…私っ…って」

言っちゃっても、いいよね?

「私だってぇ…っ」

今だけだから、
明日からはまた、元通りになるから。

私より小さな肩にしがみついて、
小さく、
けれどもしかしたら届け。と、ちょっとだけ願って
けれど小さく、

234 :茜ss :2007/04/11(水) 23:21:44 ID:bTJDDy4t0

「私だって、義之君好きだった…よぉ……っ」

口に出してからやっぱり、しまった。と思った。
言葉にしたせいで確定してしまった。
――認めてしまった。

視界はとっくに歪んでて、
それでも視線を落とすと
床のコンクリートにありえない程、黒いシミがあって。
頭の隅で、
私、いつから泣いてたんだろうって、
ああ、もう化粧もぼろぼろだろうな。
どうやって帰ろうかな。
商店街は通れないよなぁ。
そんなどうでもいい事を考えてて、

「大好き…だった…よぉ…っ」

小さな手が私の頭を撫でた。

――さよなら。

始まる前に終わってしまった私の恋だけど

「義之くん…義之くぅ…ん…っ」

行き場のないまま終わってしまった恋だけど

「ふ…くっ…よしゆき…くぅ…ん」

それでも、

235 :茜ss :2007/04/11(水) 23:22:37 ID:bTJDDy4t0


「義之くん…が…好きだよぉ…っ」

こんなにも私は彼が好きだったのだ。

もっとちゃんと告白すればよかった。
一緒に帰ろうって待ち合わせして手を繋ぎたかった。
デートしたかった。
お弁当を作ってあげたかった。
彼に包まれて眠れたらどんなに幸せだったろう。

それは交わされることもなくて、
当たり前のように果たされなかった約束が胸を詰まらせる。

――さよなら、義之君。

それでも、
ああ、それでも

「義之君が…大好きだったよぉ…っ」

杏ちゃんはいつまでも私を抱きしめてくれていた。
私の胸のせいで背中まで手が回リきらないのにはちょっと笑ってしまった。

小さな小箱に気持ちをいっぱい詰め込んで鍵をかける。
かちり。と、それを深い海に沈めるように。

――さよなら、大好きだった男の子。

さあ、
顔をあげて歩き出そう。

236 :茜ss :2007/04/11(水) 23:23:11 ID:bTJDDy4t0


また明日からはいつもの私。
明日はどうやって彼をからかおうか。
彼のちょっと照れたような、どうしていいかわからないような顔が目に浮かぶ。
それだけで胸が躍る。
まだちくん。と痛むけれど

「小恋ちゃん達、うまくいくといいね。」と

ちょっとしゃくりあげたけど
ちゃんと言えたと思う。
本当に心から。

「あの人が幸せでありますように」――と。

「いい女ね。アンタ」
と杏ちゃんが言うもんだから
「やーね、今頃気づいたのぉ?」
と返してやった。



    end





237 :名無しさん@初回限定 :2007/04/13(金) 23:52:23 ID:vEdl4elD0

GJ!

……やっぱエロゲは、ハーレムでみんな幸せになってナンボだと思ったエロゲ脳。

238 :名無しさん@初回限定 :2007/04/15(日) 03:31:32 ID:rrAIIWap0

遅レスだけど、いつ空の人GJ。面白かったです。
いつ空かなり好きだけどSS書いてる人が殆ど居なくて悲しいのです。

239 :名無しさん@初回限定 :2007/04/15(日) 21:38:05 ID:R0WaATPl0

普通に書きにくいからじゃないでしょうか、特に後半以後となると主人公周り以外もういないですし。

車輪、いつ空、DC2と置いてみたけど車輪は作品別スレでも結構、評価いただけたんですが
残り2つは華麗にスルーされまくってました。こんなもんなのかな(ノ∀`)

240 :名無しさん@初回限定 :2007/04/16(月) 23:53:04 ID:/r4DXdNw0

いつ空の人GJ!

そういや最近かにしのSSの投下がなくなったなぁ

241 :名無しさん@初回限定 :2007/04/16(月) 23:53:35 ID:/r4DXdNw0

いつ空の人GJ!

そういや最近かにしのSSの投下がなくなったなぁ

242 :名無しさん@初回限定 :2007/04/19(木) 12:14:56 ID:vVZ3PB1D0

誰か茜と結ばれるSSを

243 :名無しさん@初回限定 :2007/04/20(金) 10:10:10 ID:Z0smUQW70

どこの「茜」かまず教えてくれ

244 :名無しさん@初回限定 :2007/04/20(金) 12:32:07 ID:Kwx9beaJ0

ダッシュ勝平

245 :名無しさん@初回限定 :2007/04/20(金) 12:58:34 ID:1V+Gqct30

見たいもの見たい

246 :名無しさん@初回限定 :2007/04/21(土) 18:57:50 ID:dKQIaB680

たった今「月光のカルネヴァーレ」が終わったんだが
過去に月光のSSとかってあったかい?

247 :名無しさん@初回限定 :2007/04/21(土) 19:19:49 ID:EO4iR2KS0

月光はなかったかな

248 :名無しさん@初回限定 :2007/04/21(土) 19:52:49 ID:nyC8q7Yu0

そうか
残念だが見逃さすに済んだという妙な安心感を覚えたのもたしかだぜ

249 :名無しさん@初回限定 :2007/04/22(日) 01:42:52 ID:Gcy1NjFv0

>>246
ちょっとスレチだが、面白かった?
なんとなくイヤな予感がしたので回避したのよね。サントラは買ったけど。

250 :こんにゃく小噺 :2007/04/22(日) 09:43:28 ID:2KyEtmTg0


海辺を2人で歩いていた。
繋いでいた手を離して彼女がくるり。と背を向けた。
「ねえ先輩?」
「ん?」
「あの時のクイズ、です。」
「あの時?」
「お祖父様とお祖母様
 2人の時だけはお互いを特別な呼び名で呼び合っていたそうなんですよ。」
「へえ」
またくるり。と振り返って、
「へえ。ってなんですかっ もう、ムードないんですから。」
一瞬、調子を崩した宮がなんとか平静を取り戻して
こほん。と一息、
「さて、ここで問題です。
 お祖父様は「先生」とお祖母様から呼ばれていました
 ではお祖母様はお祖父様からなんと呼ばれていたでしょう?」
「みやこ、さんだっけ?うーん…」

などと口では考える振りをしてはみるものの
なんでこう、こいつは回りくどい手を使いたがるかなと
2人だけの特別な呼び名

先生とみやこ
先生と生徒
先輩と後輩
先輩と…

251 :こんにゃく小噺 :2007/04/22(日) 10:03:09 ID:ey0VNJJb0


多分、それが正解。
「…とても」
波打ち際で銀色の髪が踊る。
光のしぶきが跳ねて舞う。
「うん?」
「とても愛おしそうに呼ばれてたそうですよ。」
「その名前、を…」 

「宮…」

「…正解、です。」
はにかむように、
俺の目の前まで迫る宮の瞳が揺れる。
…なんというか
こいつは一つ忘れている。
みやこさんを「みや」と呼んだのは多分、たった一人だという事を――。

「先輩、私…」

「お前の場合、寮のみんなもそう呼んでるじゃん。その数6名。」

「ああっ!?」



end

252 :名無しさん@初回限定 :2007/04/22(日) 20:14:15 ID:owi8to/M0

まったりしててええがね。

>249
淡々としてるが破綻なく面白いよ。
ただ熱狂的にスゲー!という作品じゃないので評判をあまり聞かないんだろう。
良くも悪くもいじり甲斐がない。

253 :名無しさん@初回限定 :2007/04/23(月) 10:33:02 ID:QTg8H9gp0

エロパロ板のニトロスレに投下してたヤツは居たな

254 :いつ空「トラウマの作り方」 :2007/04/24(火) 11:00:57 ID:46ShEI+Z0

初めて投稿します。
「いつか、届く、あの空に。」のSS「トラウマの作り方」です。
ふたみとのんに萌え転がりたいのでこんなん書きました。
生暖かい目で見てやってください。

※ふたみ大先生がぶっ壊れてます。トリマキがぶっ壊れます。ご了承下さい。

255 :いつ空「トラウマの作り方」 :2007/04/24(火) 11:02:07 ID:46ShEI+Z0

これは、策が空明市にやってくる少しだけ前の話。
否定の意味を持つ少女、透舞のんが少し火傷をした話。

 ---

「唯井さん、ちょっと宜しいかしら?」

弐壱学園の一日も終わり、陽が西へ傾く頃。
透舞のんは教室から出て行こうとする傍若無人を呼び止めていた。

「なんだ?とおりま………トリマキ」
「なんで言い直したんですのっ!?」

彼女、唯井ふたみは、誰でも彼でも彼女の独断でにあだ名を付け、それを使う事を心がけ
ているようだ。何故か。そして、そのあだ名は度々において相手の不本意な所に落ち着く
事がある。

「何故って、トリマキはトリマキだ。トリマキは透舞よりはトリマキらしいじゃないか」

そして、こんな理解に苦しむ理屈を、真っ直ぐに伝えてくるのだ。

「……マトモに説得しようとした私が愚かでしたわ」

顔に手を当て、俯く。
しかし、今ののんには自分がトリマキと呼ばれる事よりも優先すべき懸案があった。

「それより、貴女今朝、此芽お姉さまに口答えをしていらっしゃったんですって?」

256 :いつ空「トラウマの作り方」 :2007/04/24(火) 11:02:37 ID:46ShEI+Z0

――それは、今朝の話である。

のんが”お姉さま”と慕う桜守姫家のお嬢様、桜守姫此芽と目の前の少女ふたみが、教室
の前で何やら言い合いをしていたらしいのだ。
らしい、というのは、此芽の妹である桜守姫みどのにその話を聞いたからだ。
気が弱いみどのはその様を目撃していたがかける言葉も見当たらず、オロオロしているう
ちに此芽は呆れたようなため息をついた後、教室に入っていったそうなのだ。

お姉さまは偉大である。
のんが自分はこうありたい、と願い、憧れ、目標にしてきた人物である。
そんなお姉さまに楯突く者は、自分にとって放っておいていい者であるはずがない――

のんは、キッ、とふたみを睨んだ。

気が強いのんの視線は、攻撃的であった。
気の弱い相手ならば、怖気付いたであろう。
気の強い相手ならば、睨み返したであろう。

「なんのことだ?全く以って身に覚えが無い」

しかし、ふたみはどちらでも無く、偽りの無い瞳でのんの眼を射抜き返していた。

(……これだから)

のんは、ふたみが苦手だった。
そんな瞳で見られると、直視できなくなってしまう。恥ずかしくなる、というか。
汚れを知らない童のような純粋さに、当てられてしまうのだ。

257 :支援 :2007/04/24(火) 11:18:08 ID:qPXRHXSj0

よく分かりませんが支援しておきますね

258 :いつ空「トラウマの作り方」 :2007/04/24(火) 11:26:23 ID:wbJgJvV+O

「と、とぼけたって無駄ですわよ!」

ぷい、となるべく自然に視線を逸らす。

「とぼけるも何も、解らない物は解らない。確かに今朝コノと言い合いにはなったが、口

答えをした覚えはない」
「………」

そんな事だろうとは思った。
彼女がどこまで本気かは解らないが、みどのの言っていた事はやはり本当であるようだ。


「……言い合いになっている時点で口答えしている事に、お気付きになられません?」

「それは違うぞトリマキ。言い合いというのは意見の交換だ。口答えとは全く違う」
「貴女ねぇ…!」

危うく、声を荒げそうになる。が、

「そもそも、何でオマエが怒ってるんだ?ワケが解らないぞトリマキ」

259 :いつ空「トラウマの作り方」 :2007/04/24(火) 11:34:41 ID:wbJgJvV+O

「な」

固まった。
この”ワケが解らない”ふたみに”ワケが解らない”と言われては絶句する他は無い。

「うん、そうか。なるほど。トリマキは機嫌が悪いのだな」
「…え、えぇ?」
「ここは一つ、私が心温まる話の一つでもして元気付けてやろうじゃないか。うん、それ
がいい」
「あの?」

のんが自分を見失っている間に、ころころと独自の理論を広げていくふたみ。
後になって解った事だが、この時、のんは全力でふたみを止めるか脱兎の如く逃げ出すか
をすべきだったのだ。

「ではいくぞ。4丁目の佐藤さんの庭に花が咲いた話だ」

得意げにふたみは語りだす。

「佐藤さんは大の園芸好きで、庭の植物にかける愛情は誰にも負けないくらいだった。だ
が、過保護に水や肥料をやりすぎるせいで、佐藤さんの庭に花が咲く事は無かった」

不意に、がし、と。
「え?」

ふたみの両手が、のんの肩に架かっていた。

「ぃ、唯井さん?」

260 :いつ空「トラウマの作り方」 :2007/04/24(火) 11:40:24 ID:wbJgJvV+O

そのまま、ずい、とふたみが迫ってくる。

「佐藤さんは、そう、自分の愛が余りあるゆえに花が咲かない事が解らなかったんだな」

「ちょ、ちょっと!」

急にふたみの顔が自分の眼前に寄り、のんは後退せざるを得なくなる。
トン、と背中に教室の壁が当たる。
壁際まで追い詰められた形だ。

「佐藤さんは悲しんだ。何故、こんなにも愛を注いでいるのに、花を咲かせてくれないの
か。愛は盲目というが、正にこのことだな」

そんな事を言いながら、ふたみは更に顔を近づけてくる。

「いいいい唯井さん!?ふたみさん?!」

のんは必死でふたみの手を払おうとするが、この細い腕のどこにそんな力があるのか、肩
を掴んだふたみの手はピクリともしない。
それに、ふたみの顔を直視できない。

なんの間違いか、のんは今、「愛」なんて言われながらふたみに迫られている。
自分にその気はないと信じたかったし、疑いたくも無かったが、のんの心臓は確実に鼓動
を早めていた。

261 :いつ空「トラウマの作り方」 :2007/04/24(火) 11:51:46 ID:wbJgJvV+O

「そしてついに、佐藤さんは愛する事をやめてしまったんだ。いくら自分が愛しても、相
手は気付いてくれない、返してくれない。それに耐えられなくなった」

そんな事を言いながら、ふたみは右手をのんの頬に沿え、顔を自分のほうに向けた。
ふたみの顔は何故か紅潮しており、とろんとした瞳でのんを見つめていた。
はぁ、とふたみの息がのんの顔にかかる。

「〜〜〜〜!!!」

のんは既に言葉も口に出来ず、これでもかというくらいに赤面していた。
佐藤さんの庭の話ですよ?これ。

 ---

「そんなこんなで、佐藤さんは花にかける愛情を取り戻したんだ」
「えぁ……ぅ…」

教室には既に2人だけしか姿は無く、ふたみが心温まる話をはじめる前に他の生徒はさっ
さと帰路についたようだった。
それが幸いだったのか不幸だったのか、のんには考える余裕は残ってはいない。
ふたみの顔はのんと鼻が触れ合いそうになる程まで近づいていたが、ふたみはそれでも”
心温まる話”を続けるだけだ。お陰で、のんのパニック状態は解除される事なく、真っ赤
な顔でこの膠着状態に耐える他に出来る事はなかった。

と、そんな場面に、
ガラララ!
と扉の音を立てて教室に入ってくる人物が居た。

262 :いつ空「トラウマの作り方」 :2007/04/24(火) 11:55:23 ID:wbJgJvV+O

「クイ、まだ居られるかえ?職員室に用があった故、遅ぅなってs」

――時が、停止した。

顔を紅潮させてのんに迫るふたみ。
顔をこれでもか、というくらい赤らめているのん。
それを視界に収めて石化している此芽。
それは、混沌以外の何物でもなかった。

――時が、停止していた。
ふたみ以外の。

「愛は猫をも殺す、とも言うからな。佐藤さんは自分の愛が盲目であったと気付いたんだ」

ふたみは、教室に入ってきた此芽に気付かず、”心温まる”を続けている。
彼女だけが、この世界で生きていた。

 ---

「あああ違あああぁああぁああ違う違ああぁああ」
ガンガンガンガンガンガン。

「……?」

通りすがりの明日宿傘は、この日から一週間、鳥居にひたすら頭を打ち付ける奇妙な巫女
を幾度と無く目撃する事になる。

終われ。

263 :名無しさん@初回限定 :2007/04/24(火) 12:02:03 ID:wbJgJvV+O

何も考えずに投下したら規制もらいましたぎぎぎぎぎ
というわけでID違うけど同一人物です。

支援ありがとうございます。

264 :名無しさん@初回限定 :2007/04/24(火) 15:43:04 ID:0qX84d0g0

規制中なだけに奇声を発してるのかな、とか言ってみたり。

265 :名無しさん@初回限定 :2007/04/24(火) 22:53:12 ID:XC82aF8j0

>264
ダジャレの解説ほど残酷なものって無いよな。

それはそれとして、>254-262 gj!
……しかし、FDでいいから、全員幸せになるようなシナリオが読みたい。
3人のどのエンドに行っても鬱になれるorz

266 :かにしのSS「Cherry Girls 前編」1 :2007/04/26(木) 19:44:47 ID:1A0cFh2b0

VFBが本日やっと届いた紅茶奴隷ですorz
殿子寝間着かわいいよ殿子(`・ω・´)ゞ
それはともかく、かにしのVFB祝発売!ということで久々に投下。
朝の弱い某サブキャラがすみすみと仲良くなるまでのお話です。
みさきち√第九話〜第十話のころを想定しています。
とりあえず今回は前編ということで。
それではどうぞ。

「Cherry Girls 前編」

……この時間は、彼女だけのもの。
読書灯だけがベッドを照らす中で、もぞもぞと動くパジャマ姿の影。
密やかな声が漏れる。
「……んっ……あ」
指が中心を求めて動く。
誰かを想いながら、彼女の手と指は的確に自ら快楽を貪る。
「あっ……ん…………ッ!」
ひときわ高い声が部屋に響いた後。
全身の力が抜けてベッドにだらり、と横たわった彼女はじっと手を見る。
指先を光に照らすと、半透明の液体がわずかに糸を引いた。
恐る恐る――だが結局はいつものように、おずおずと伸ばした舌がそれを舐めとる。
少しだけ、塩辛かった。
同時に襲ってくる、自己嫌悪と虚脱感。

267 :かにしのSS「Cherry Girls 前編」2 :2007/04/26(木) 19:45:45 ID:1A0cFh2b0

「また……やってしまいました、なのです……」
だけど、決して彼女は毎夜のこの儀式をやめようとはしない。
「……シャワー浴びて、寝ましょう」
身だしなみはきちんとして眠ること。
その必要性を誰よりも、自分が一番よく知っている。
そもそも、もともと寝相が良いほうではなし。
加えて、朝の自分がどんな状態にあるかを思えば必要かつ重要な予防措置だった。
たまに、毎日これをしているせいで朝が弱いのでは、と思うこともある。
けれど――今の彼女は、してから、でないと眠れないのだ。
どんなに罪悪感を覚えても、やめられなかった。
特に最近。皆が遊ぶ砂浜に、遅れて一人の少女がやってきた、あの日以降は。
机の上の写真立てに一瞬眼をやった後、はぁ、と溜息をついて彼女は浴室に向かった。
写真の中には、水着姿の少女が良く似た髪の色を持つ姉と話している光景があった。
楽しそうに。とても――楽しそうに。
彼女は思う。
なぜ、私は――楽しくなれないんだろう。

268 :かにしのSS「Cherry Girls 前編」3 :2007/04/26(木) 19:47:23 ID:1A0cFh2b0

「香奈ちーん!朝だよっ!メイドさん来ちゃうよー!」
大銀杏弥生の声が遠くから聞こえる。
分厚い扉を超えて届くということは、よっぽどバカでかい声で叫んでいるに違いない。
………………
もぞり、と眼の開かぬまま三橋香奈は起き上がった。
条件反射のようなものだ。とりあえず体は直立しても、脳は90パーセント眠っている。
部屋の物体もほとんど「見て」はいない。
カンブリア紀の生物のように、光の濃淡だけで部屋の中の障害物を認識し回避する。
だがこんな状態でも、歯ブラシや洗面用具はいつのまにか必ず手にしている。
毎日必ず同じ場所に配置してから寝るという下準備のおかげだ。
もし誰かが歯ブラシと剃刀をすり替えていたら大変なことになるだろうけども。
絶望的に朝に弱い彼女の最低血圧は20以下。中学の修学旅行では変温動物と呼ばれた。
小学生のころ、朝起こしにきた母が驚愕のあまり救急車を呼んだこともあったほどだ。
朦朧としたまま、香奈がそのままドアを開けると。
「ふがっ」
今日も誰かにぶつかったらしい。
「うぐぐぐ……またか三橋……いつも言っているが出てくる前に服を着替えろ!また胸元がっ下着がっ」
例によって滝沢先生のようだ。何故いつも扉側を歩くのですか、と普段の香奈なら思うだろうが、今の彼女にそこまでの思考力はない。
先生と認識したのも声がデジャヴと結びついたからに過ぎず、会話しようという意思も当然生じない。
溜息をつく滝沢の背後から響いた声もまた耳には入っているが聞いてはいない。
「はいはいそーこーまーでー!センセ、朝食まだでしょ?一緒にいこっ!」
「……おはよう、相沢」
「おっはよー!もう我が妹は食堂いっちゃったよっ!」
(………いもうと?)

269 :かにしのSS「Cherry Girls 前編」4 :2007/04/26(木) 19:50:31 ID:d/PweFIh0

そのフレーズにリヴィングデッド状態の香奈はぴくり、と反応した。
相沢美綺と連れだった教師の足音が遠ざかるにつれ、彼女の脳内から霧が晴れていく。
「……いも」
「およ?眼ぇ醒めた?香奈ちん」
「……芋?ぽてちでも食いたいのかな?」
弥生とのばら他、残されたいつものメンバーが首をかしげて見守る中。
ややあって、認識が戻ってくる。世界が開ける。
…………
「きゃああああああ!あさあああああ!着替えっ着替えええええ!ごはんっ!」
「おー、今日は素に返るの早いじゃん香奈ちん。あったしが呼んだおかげかなっ」
自分に常に都合よく解釈する弥生に、のばらは冷静に返す。
「やーちゃん、賭けに勝ちたいからってあんなでかい声で叫ばなくたってさー。まあ、時間見た限りではあまり意味無しだったみたいだけどー?」
ちーん。エレベーターの音。配膳の時間だ。
「でも、メイドさんもう来ちゃったよっ、とぉ……着替え間に合うと思う?」
「今日も駄目だと思うねー。つーことで賭けはあたしの勝ち……ああっ逃げるな弥生っ!」
「いつも通り♪いつも通り♪」
双子がさえずるように宣言すると同時に、メイドさんズが朝食の配膳ワゴンを押して現れる。
やんややんややんややんや。
……そしていつものやり取りの末、今日もワゴンは香奈の部屋をスルーしていった。

270 :かにしのSS「Cherry Girls 前編」5 :2007/04/26(木) 19:52:05 ID:d/PweFIh0

扉の向こうから引き止めを懇願しつつ、ようやく着替え終えた香奈が出てきたとき、既に美味しい筈の朝食は遥か彼方。
「ああ……朝ごはんが……」
未練がましく手をそちらに向ける彼女の背後からぽんぽん、と誰かが肩を叩く。
力なく振り向くと、そこにはちよりんが音も無く立っていた。
「……スルー記録継続中」
一言ぼそりと呟いて、足音もたてずそのまま通り過ぎていく。
とどめを刺され、気力の尽きた香奈はそのままへたり込む。
ぐきゅるるるぅ、と同時におなかが鳴った。
「……ごっ……五ヶ月超えなのですっ……」
新学期から一度たりと、香奈は朝食にありついていなかった。要するに、長めの休暇のとき以外は土日ですら常に逃しているのだ。
それならワゴンを止めて食堂で摂ればよさそうなものだが、こんな彼女にも意地があり人並み以上に他人への見栄がある。
かてて加えて自分から何かを変えよう、とはなかなか言い出せないタイプでもあった。
といって朝、無理やり起きるだけの意志力も使命感も血圧もなく。
かくして記録は更新を続ける。

271 :かにしのSS「Cherry Girls 前編」6 :2007/04/26(木) 19:53:12 ID:d/PweFIh0

とは言え、年頃の娘がずっと昼まで何も食べずにいられるはずはないわけで。
食事が当たらない可能性を見越して、普段の香奈は休憩時間につまむ菓子などをあらかじめ調達していた。
(……我ながら常に弱気だとは思いますけど……しかしっ)
しかし今日授業が始まってから、彼女は重大な危機に直面していることに気づいた。
ポーチに入っていた筈の菓子類はすべて切らしている上に、たまたま小銭の持ち合わせも無かった。
休憩時間に寮まで戻っている余裕はない。売店も使えない。
しかし、周囲に菓子や小銭をねだるのは彼女のなけなしのプライドが許さない。
つまりそれは、昼食までこの状態で耐えねばならないという事を意味していた。
ぐ……ぐきゅるるるるうっ。
一時限目から盛大にお腹の虫が鳴り響く。
昨日の夕食は早めに終えてしまったので、胃の中には一切何も残っていない。
胃液が空きっ腹に沁みるのを彼女は感じていた。踏んだり蹴ったりである。
(ううっ……恥ずかしい……)
音に関しては、本人が思っているほど周囲に響くわけではない。
加えて周りはいつものことなので気にもしていないのだが、本人の羞恥心には重大なダメージだった。
しかも今日は、隣に彼女がいる。
元は鋼鉄の委員長、しかして今は相沢美綺の妹。すなわち仁礼栖香が。

272 :かにしのSS「Cherry Girls 前編」7 :2007/04/26(木) 19:54:52 ID:FsHg8zh10

何度目かのぐきゅるる、の後、ちらりとその仁礼が香奈を見た。
(聴かれた?ううっ……恥ずかしいですっ……)
彼女には。彼女にだけは、こんな姿を見せたくはないのに。
もっとも、香奈の内心を知ったら同級生は口を揃えて「今更遅い」と言っただろうが。
(ただでさえ軽く見られているのにっ……一層軽蔑されてしまいますっ……うう)
そのとき。
(……三橋さん?)
彼女がそっと囁いた。
(……え?)
(良かったら、食べて下さい)
机の影から、そっと彼女の手がこちらに差し出される。
(……ちろりちょこが三つ)
華奢で繊細で色白の、彼女の手にちょこんと乗った、やや場違いなお菓子。
彼女が休憩時間でつまむためのものだろうか?とは言え香奈には過去、仁礼がそのような行動を取っていた記憶はない。
(ちろりちょこ……も彼女らしくない……ですがっ)
(……御嫌いですか?)
(あっ……ありがとうございます……)
恥じ入って、でも遠慮している場合でもなく、彼女はそっと受け取った。
先生の眼を盗みつつ、口の中に放り込んだその味は。
いつも食べるチョコより、さらに甘く感じた。

273 :かにしのSS「Cherry Girls 前編」8 :2007/04/26(木) 19:56:18 ID:FsHg8zh10

昼休みになりなんとか栄養を補充。ようやく人心地がついた香奈が食堂から廊下に出ると、トイレから出てきた仁礼に会った。
慌ててもう一度先ほどの礼を言う。
「に仁礼さんっ!さささっきはどうもありがとうございましたっ」
いえ、と彼女はにっこり笑って、
「お気になさらないで下さい。何しろ音が聞き苦……いえ、失礼致しました」
こほん、と咳払いをして頬を赤らめる仁礼栖香。
今何て言ったコラ、と思いつつもむしろ落ち込む香奈。
(聞き苦しいって言われた……仁礼さんに……ううっ……)
だがその栖香は眉間にしわを寄せてなにやら真剣に考えている。
その表情に怯えながらも香奈は尋ねてみる。
「……ま、まだなにか?」
「いえ、済みません。中々適切な言葉が見つからなくて。その……三橋さんも、余り人に聴かれたい音では無いのでは、と思ったものですから」
どうやら気を使ってくれていたらしい。言葉の選択はともかくとして。
「いいいえええええ!あああ有難うございます本当に!そのっ、でも、仁礼さんがチョコを持ち歩くなんて意外で」
「ええ……実は朝食の後にお姉様から頂いたのですけど、食べきれなくて……後で頂こうとは思っていたのですが」
そんな大事(と仁礼さんが思っているであろう物を)呉れたのか。青くなった香奈は即座に返答する。
「ごめんなさいごめんなさいっ。買って返しますっ」
「宜しいですよ。また貰えますし……それに、その」
何故か口ごもる栖香。

274 :かにしのSS「Cherry Girls 前編」9 :2007/04/26(木) 19:57:48 ID:FsHg8zh10

「……何か?」
「私は余りその……三橋さんのように休憩時間に食べる習慣が無いものですから」
どずんと再び落ち込む。
(ううっ――そんな比較をされると私の育ちの悪さがにじみ出ている様じゃないですかっ)
「……習慣ではないんですっ!これは止むを得ない事情があってですねっ」
「そうだったのですか?」
反論する香奈に首をちょっと傾げた後、はた、と手を打つ栖香。
「ああ、そうでした。朝食をいつも御摂り出来ていないので御腹が空くのですね」
…………
今度こそとどめを刺された。
必死で平静を装いながら沈没し続ける香奈の前、なにやら考えていた栖香は突然提案してきた。
「あの……もし宣しければですが、私達と、食堂で朝食を御一緒致しませんか」
え?と香奈は自分の耳を疑う。
何ですか、その振って沸いたような良い話は?
「最近良く、お姉様と上原さんと滝沢先生で食べているのですけど、三橋さんも一緒ならもっと楽しくなるのではないかと――」
何故。そんな、飛びつきたくなるような話を。
今。こんな時に。
「ああああのあのあのっ」
気がつくと香奈は。

275 :かにしのSS「Cherry Girls 前編」10 :2007/04/26(木) 19:59:41 ID:qcjt+jZ80

「ううう嬉しいんですけどっ、私は朝ちゃんと起きれるようになりっなりたいのでっ」
心にも無い言葉をひとりでに紡いでいた。
起きれるわけが無いのに。
「ワゴンの朝食を、食べられるようにならないと人としてっ」
努力してるといいつつ、本気で頑張ったことなど無いのに。
「ままっままたの機会にっ!」
ばたばたばたっ、と後ずさりしてしまう。
そうしたく無い筈なのに、何かを恐れて、下を向いてしまう。
「……そうですか。では、またの機会に」
栖香の声は怒っているようには聞こえなかった。
香奈は恐る恐る、眼だけで彼女をちらりと見上げる。
――美綺と和解する前の仁礼栖香が、そこに居た。
家族と団欒する美綺を影から見ていたときの、あの眼。
寂しそうなその眼が視界に入ったとたん、さらに香奈はいたたまれなくなって。
「ごっごっ――ごめんなさいですっ!」
その場からダッシュで、離れてしまった。

「ふ……ふえええええんッ!」
ダッシュしながら彼女はぐずぐず泣く。
いつもの――そう、いつものように。
(なぜ、いつも私は、私はっ……正直になれないのでしょうかっ!)

276 :かにしのSS「Cherry Girls 前編」11 :2007/04/26(木) 20:00:59 ID:qcjt+jZ80

三橋香奈。
気が弱くてすぐパニクる。
努力こそするが、客観的に見るとあまり成果を挙げていない。
困るとしばしば思ってもいないことを言って、その場を取り繕おうとする。
ちょっと頑張るとその度に言葉尻を捉えられ、足元をすくわれる。
舞い上がって高いところに立つと、自分から足を踏み外して落ちる。
せめて屋根の上ぐらいならと昇れば、誰かに梯子を外される。
――そんな彼女。

そんな香奈に、転機が訪れたのは。
夏も終わり、長雨がやって来る少し前のことだった。

「Cherry Girls 前編」 了

続きはしばらく時間を下さいです……
ドラマCDにさっそく和みまくりの紅茶奴隷でした。

277 :かにしのSS「Cherry Girls 前編」 :2007/04/26(木) 20:04:17 ID:lEl6yaRQ0

>266-276でよろ。

278 :名無しさん@初回限定 :2007/04/27(金) 03:17:53 ID:3XseJg9c0

>>266
拝読しました。
本編では脇役となっていたキャラへスポットを当てたSS、いいですねー。
キャラ選択も、渋いですねー。楽しませていただきました。

>続きはしばらく時間を下さいです……

これは俺に対する拷問ですか… ⊂⌒~⊃xДx)⊃

279 :名無しさん@初回限定 :2007/04/28(土) 01:53:11 ID:c8HmzGGK0

>>277
紅茶奴隷さん、久しぶりのかにしのSSをありがとうございます。
というか、ここで終わるのは何かのお預けプレーですか?w
個人的には、相変わらずちよりんがいいタイミングで
いい味を出してると思います。 GJ!
ではでは、続きを首を長くして楽しみに待っています。

#もちろん、VFBは買っていますよ。
#すみすみかわいいよ、すみすみ。

280 :名無しさん@初回限定 :2007/04/30(月) 19:35:13 ID:naP0m6iuO

天使のいない12月のSS誰か頼む。
雪緒か明日菜さんで。

281 :名無しさん@初回限定 :2007/04/30(月) 20:45:05 ID:kQC2/VJq0

葉鍵板の過去ログにあるんじゃないか?

282 :名無しさん@初回限定 :2007/05/01(火) 00:05:30 ID:jBkuKTq10

すみすみの長編エロSS頼む

283 :かにしのSS「Cherry Girls 後編」1 :2007/05/04(金) 00:12:24 ID:1r0k2nRt0

紅茶奴隷でした。
お待たせしました……あまり待ってない?そうですよね。
とりあえず回線の都合上、今日と明日に分割して投下させてくださいです><
当初思ってたより筆が走りすぎました……orz
そんなわけでどぞ。

「Cherry Girls 後編」 

今日も今日とて。
深夜二時の寝室。
「……あっ……はぁっ……いっ」
熱と湿度を纏わりつかせた吐息と嬌声。
「んっ……くぅ……っ!」
やがてそれは絶頂をむかえ。
いつものように、脱力した香奈はのへー、とだらしなく体を伸ばす。
はあ……
「またまた……やってしまいました……なのです」
ややあってぽとり、と彼女の大事な部分から毀れ落ちたのは、三種四個のちいさな立方体。
委細は問うまい。D100とD8とD6だ。
濡れたそれを掌の上で転がしながら、香奈はまた罪悪感に浸る。
「……だいぶ磨り減ってきてしまったのです」
それはかなり年季の入ったダイスだった。角はもう、だいぶ丸くなってきている。
そのうちセッションで使うにも問題が出てきそうだ。
今までは誰にも気づかれなかったけれど、弥生やちよりんは変な所で鋭いから。
香奈としては余計な詮索をされるのは困るのだった。
いや、それ以前の問題として、神聖なダイスを目的外使用するなと。
ゲームマスターの神様なるものが居るなら、速やかに雷を落とされていそうな彼女ではある。
(未だ入り口ですけど、ちと弄びすぎたのです……か?)
奥に入れるとなにか後戻りできないような気がして怖いのでそこまではしていない。
しかし、何日かに一遍はこれで慰めないと香奈は落ち着けないのだった。

284 :かにしのSS「Cherry Girls 後編」2 :2007/05/04(金) 00:13:32 ID:1r0k2nRt0

道具を使うにしろ使わないにしろ、「ひとり遊び」についてはすでに香奈はエキスパートだ。
小学校のころから、ネットなどで目一杯知識だけは詰め込んできた。
TRPGを覚えたのもそのころであり、ダイスも「くとぅるふのよびごえ」と同時に手に入れたものだ。
しかし、当時は回りに一緒にセッションしてくれる人がいなかった。
ゆえに彼女は、頭の中で話を組み立てるだけで満足しなければならなかったわけで。
「……おかげで、妄想力だけは人一倍になってしまったのです」
今はTRPGに付き合ってくれる友人もできた。
研究会の活動ができるのは嬉しいし、楽しい。
だけれど、彼女は大抵ゲームマスターだった。
一番ルールに詳しいのが自分だから仕方ないのだが、でも、と香奈は思う。
「たまには、私だって背景ではなく、主人公になってみたいのですっ……」
ゲームの中ではなく、自分が今居るここで。
とは言うものの。
現実の壁を前に、妄想は立ち止まる、そんな日々の繰り返し。
ずっと自分はこのままなのだろうか、と思っていた。
「いやっ……いけません、こんなことではっ!まだ見ぬ明日に向かって頑張るのですっ……!」
ダイスをぎゅっ、と握り締める香奈。
(私は、もっと積極的にならなければいけないのです)
……とりあえず、今度は私から仁礼さんを誘ってみよう、と彼女は思った。
こないだの仁礼の表情を思う。哀しげな瞳を思う。
彼女の中には硬い氷がある。それを真剣に溶かしたいのなら、こっちから待っていてはいけない。
「でも……私にできるでしょうか?もし、こないだのことで彼女が怒ってたらどうすれば……」
もくもくといつもの不安と弱気が顔を出すが、今日の香奈は一味違う。
「――運試しなのです」

285 :かにしのSS「Cherry Girls 後編」3 :2007/05/04(金) 00:15:17 ID:1r0k2nRt0

(ただし、成功確率は70パーセントに設定するのです)
この辺がまだ弱気だったけど。
70以下が出れば、仁礼さんは怒っていない怒っていない怒っていない……
「……えいっ」
おずおずと十面ダイスを二個、床に転がしてみる。
D100ロール。
ぴたり、と止まった目を確認する。
……0のゾロ目だった。
すなわちファンブル――自動的に失敗。
香奈はそのままの姿勢で、ベッドからずるずると崩れ落ちる。
(ふぁ……ファンブルですかっ……!)
とりあえず、この日、ゲームマスターの神様は香奈には優しくないらしかった。
「神様……ノーカンになりませんか……?」
ダイスを弄んだ罰、かもしれない。

それでも。捨てる神あれば拾う神在り、とはよく言ったもので。
「三橋さん?」
「……は、はいっ!なんでしょう?」
あれから少しずつ、二人の距離は近づきつつあった。
おずおずと声をかけ非礼をわびた香奈に、栖香は快く対応して許してくれた。
むしろ、その後もなにかにつけ腰の引ける香奈に対して、一直線に、飽きもせず何度も誘いをかけてくる。
そうなれば意志の弱い香奈のこと、誘いを断れるはずもなく。
無論、それは嬉しいことでもあって。
現状、何日かに一度、相沢の姿が見えないときなどは二人で昼食を一緒にとるようになっていた。
生憎今日は雨だったので、食堂の一角に二人は場所をとり向かい合っている。

286 :かにしのSS「Cherry Girls 後編」4 :2007/05/04(金) 00:16:50 ID:1r0k2nRt0

(この状況こそは、私が望んでいたものっ……)
すなわち、全体として香奈が望む方向に進展しているはず……なのだが。
香奈自身は嬉しいと思いつつも、この期に及んでいろいろと違和感を感じつつあった。
多幸感と不安が交互に襲ってくる状況というか。
(とにかく……腹芸が通用しない人ですっ。凄いというか……ある意味馬鹿正直、というか)
自分を棚に上げて、香奈はそんな事を思う。
会話における迂遠さと発言の無責任さというものに拠りかかっている香奈に対し、栖香は徹底して発言の明確さに拘り、そして他者の発言には基本的に真実性が担保されていると信じていた。
結果としていえば、栖香には冗談というものが通用しなかった。全く、といってもいい。
また、好悪、善悪のスイッチの切り替えがはっきりしており、その中間というのは存在しないようだった。
そして香奈の発言はとりあえずすべて善意の方向で受け取ってもらえているらしい。
すなわち香奈が慮って曖昧な褒め方をしたものでも、それは明確な賛辞なのだ。
たとえばそれは栖香が最近熱を入れている料理に関する感想であったり、
美術作品に関する意見であったりするのだったが。
(私たち、これでいいんでしょうか……?)
――彼女といること。それ自体は嬉しい、とても嬉しくて、楽しい。
だがそれでも、香奈は虚構の上に築かれた舞台に立っているような危うさを感じていた。
――しかしそれは、いったいどちらの問題なのだろう?
ちなみに、それはそれとして、香奈は相変わらず朝食は食べられていなかった。
空腹に関してはお菓子の隠し場所を増やすことでクリアした。
(……根本的な解決から眼をそらしているのではないかと自分で思わなくもないですが)
背に腹は変えられないとはよく言ったもので。

287 :かにしのSS「Cherry Girls 後編」5 :2007/05/04(金) 00:18:15 ID:1r0k2nRt0

まあ、とりあえず今の所、状況は香奈にとって大進歩だったが、他にも気になることはあった。
それはひょっとして相沢美綺が気を使ってくれているのでは?と言う疑念。
香奈の気持ちを察して、二人の時間を作ってくれているのではないか、と。
例によってそれは香奈の考えすぎだった(とはいえ、全く見当外れでもなかった)のだが、それに思い至った時、彼女は真剣に悩んだ。
(……私は、姉妹の親しくなる時間を奪っているのではないでしょうか)
「だとすれば逆に私はお邪魔虫なのではっ……」
「どうしました?食欲が優れないのですか?」
気がつくと、栖香が不思議そうに香奈をのぞきこんでいる。箸が動いていないのを見咎めたようだ。
「はっ……?いえいえいえッ?なんでもありませんよっ」
「そうですか。ところで、上原さんに唐揚げの作り方を教わったもので、試しに揚げてみたのですが」
「……唐揚げ、ですか?」
じっと栖香の箸がつまんでいる先の物体を見る。それがどうやら唐揚げであるらしい。
(……黒い。地獄のように黒いですっ!イカスミ入り……のわけはないよね……)
「不恰好ですけど……良かったら味見して戴ければ」
申し訳なさそうに箸を差し出す栖香。
問題は外見ではなさそうだったが、香奈にはとてもそんなことは言えず。
「いえええっそんなことはありませんっ、慎んでいただきますっ」
ぱくり、とそのまま口に頂くと、ややあって。
(……苦っ!辛!そして甘っ!)
相容れないはずの三つの味が完全に独立して口の中で爆発した。
「如何ですか?」
しかし、それでも。
恐る恐るそう聞いて来る栖香に対して、香奈に出来る返事は。
「美味しいですよ、仁礼さん」
ひとつしかないのだった。
(……なぜでしょう、この緊張感と不安は?一緒にいて、嬉しくて楽しいはずなのに……何故?)
だから、香奈は気づかない。悩みながらも、気づけない。
栖香もまた、同じように悩んでいたことに。

288 :かにしのSS「Cherry Girls 後編」6 :2007/05/04(金) 00:22:28 ID:1r0k2nRt0

それを見ていたのは、例によって弥生とのばらと高松姉妹。
やんややんやといつもかびすましい彼女らの眼に宿っているのは微妙な好奇心。
「……餌付け?でもあの料理じゃちと香奈ちん可哀想じゃん?」
弥生は香奈の気持ちを深いところまでは知らない。
いつも怒られていただけに、やや仁礼に対しては斜に構えた見方をしてしまう傾向があった。
「こーら弥生、言い方意地悪すぎ。仁礼さんも打ち解けようと頑張ってるんだよきっと」
あくまでもやんわりとたしなめるのばら。弥生に最初にブレーキをかけるのは彼女の役目だ。
「そーなのかな?でもまー、すみすみが最初に香奈ちんにいったにのはなんか納得するけどさー」
「なんで?」
「だってさーあの二人けっこー似てるじゃん。猫かぶるとことか建前で生きてるところとかさー。」
確かに弥生に建前は不要のものだろうけど、とのばらは思ったが口には出さず。
「そうかも。まっ、香奈ちんは仁礼さんほど首尾一貫してないと思うけどね」
この二人には、香奈よりむしろ仁礼が積極的にアプローチしているように見えていた。
見方を変えれば、それはそれで正しかったのだけども。
「よくも悪くも意志が弱いのだなー、ふんふん」
「「意志薄弱軽佻浮薄♪自縄自縛自慰自爆♪」」
「……けーちょーふはくってどういう意味?」
「知らない……ハーフに、そのうえよりによってこの双子に国語で遅れをとるとは不覚だよっ!」
「お前ら……」
さらにそれを見ていた教師・滝沢司はとてもがっかりした。主に弥生たちの一般常識に対して。
しかし、それを指摘するのも可哀想なので、話題の部分だけやんわりとたしなめることにしたわけだが。
「余り人の交友関係をネタにするのは良くないと思うぞ?」
「ありゃ、滝沢ちんに怒られちったよ。まーだけどさ、二人とも不器用だよねー。滝沢ちんもそう思わない?」
正直、弥生に不器用と言われたらみんなショックを受けそうではあるがそれはともかく。
「ちゃんと先生と呼べ大銀杏……ともあれ、彼女らの何が不器用だって?」
「決まってんじゃん。自分の気持ちに、さー?だからあんなぎくしゃくしてんじゃない?」

289 :かにしのSS「Cherry Girls 後編」7 :2007/05/04(金) 00:23:48 ID:1r0k2nRt0

「「尻の青い子○○臭い♪自慰が過多の子他意には過敏♪」」
「やめい!年頃の娘さんがそんな言葉を口にするなっ!」
高松姉妹はきゃははは、とユニゾンで笑いながら去っていった。
相変わらず意味不明な子らだと司は思いながらも、
「……そうかもしれないな。たまには大銀杏もいい事を言う」
と遅ればせながら弥生に同意する。
「でしょでしょ。……でもたまに、は余計だっしょ、滝沢ちん」
「滝沢先生と呼べ」
ホントーにたまに、だが。

「……と言う話があったんだ。まあ、みさきちのことだから既に気づいてるかもだが」
司から見ても、仁礼と三橋が同席している時はお互いロボットのように硬くなっているように見える。
正直なところ、周辺の人間にも微妙な緊張感が漂うほどだった。
「まーね……うにゃー、ま、その内打ち解けるよっ。香奈ちん気ぃ弱いけど根はいい子だし」
とその彼女は当面、傍観するつもりのようだ。
妹がせっかく積極的に自分から動いているところ、自分が口を出すのは躊躇われるのだろう。
自分とセンセの途中までと似てる、とも言った。言われてみると司もなるほど、と思う。
さっすが姉妹、と美綺は苦笑いしていたが、ならばそれはつまり。
自分たちのように、互いの本当の気持ちに気づかないと結局、それ以上先には進めないということなのだろうか?
「上手くいくといいなーと思ってるけどねっ」
「……そうか」
「それよりもねっ。考えなきゃいけないのは、むしろ」
一緒に過ごす時間が増えたという事は、仁礼の行動はそれだけ常に三橋の注目を受けている、ということでもある。
「……調査のことか?」
放課後の調査。今は雨で休止してはいるが。仁礼との打ち合わせはずっと行っているわけで。
「そのうち香奈ちんには気づかれちゃうかもね。まーそんときはそんときさっ!」
「仲間に引き込むか?」
「そうなったらいいけど……でも、それはアタシじゃなくてすみすみの役目かなっ」
「……なるほどね」
確かに、そうに違いない。

290 :かにしのSS「Cherry Girls 後編」作者 :2007/05/04(金) 00:26:59 ID:1r0k2nRt0

とりあえず今日はここまででご勘弁を……
>283-289でよろしゅうに。
結末は明日貼れると思いますです……多分orz

291 :名無しさん@初回限定 :2007/05/04(金) 01:42:53 ID:e77yy2JlO

>>290
面白かったよ。次も楽しみにしているよ

292 :かにしのSS「Cherry Girls 後編」8 :2007/05/05(土) 01:04:06 ID:CqjiF7M90

感想有難う御座います。
遅い時間になりましたが、続きです。

相変わらず、外は雨。
垂れ込める灰色の雲の如く、香奈のテンションは地面すれすれ。
「……憂鬱なのです」
低気圧のせいだけではない。有体に言って、香奈は途方にくれていたのだ。
部屋に居ても落ち着かないので、図書室で参考書などを広げてみたものの。
当初危惧したとおり、本の内容など一文字たりとも頭に入ってこない。
ちょっと前から気になっていた件について思考が飛ぶと、そこで脳の回路がループしてしまう。
放課後の異変。滝沢先生と相沢に上原、そして仁礼。
最近では本校組の八乙女さんや鷹月さんまでが一緒になって何かをしている。
香奈は栖香に、雨の日まで集まって何をしているのか聞きたかった。
しかし、彼女は香奈に一切話してくれない。匂わせる素振りすら見せない。
こちらが放課後の予定を聞いても、姉と約束があるので、と曖昧な返事をするだけだ。
嘘ではないにしろ、何か隠しているのは間違いなかった。
「……しかし、問い詰めてもいいものなのでしょうか」
隠すにはそれなりの理由があるはず。
姉から釘を刺されている、という事もありえるだろう。
誤魔化されたときや嘘をつかれたときのダメージを考えてみる。
(ううっ……立ち直れませんっ……結局、まだ信頼されていないということなのでしょうか?)
いっそのこと、首魁と思しき相沢に直接聞くべきだろうか。
(いや、それもまた他人行儀なのですっ……)
「……何してるの」

293 :かにしのSS「Cherry Girls 後編」9 :2007/05/05(土) 01:05:46 ID:CqjiF7M90

「ひゃあああっ!?……何だ、小曾川さんですか」
いきなり後ろから声をかけられて心臓が飛び出しそうになる。
しかも。
「……仁礼?」
いきなり核心を突かれた。
「……えええええ?なな何を根拠にっ?ていうか何のことですかっ!」
小曾川智代美は、ハムスターのように小さい口の端をわずかに吊り上げて呟く。
「……悩み。バレバレ」
一応、それで微笑みを表現しているらしい。
「バレバレなのですかあっ!?」
自分はそんなにわかりやすい人間なのだろうか、と香奈は数秒間悩んだが。
…………
反論のしようも無かったので、仕方なくぽつりぽつりと状況を説明する。
「これからどうしたらいいのか、解らないんです……」
滝沢と相沢の名前が出たときだけ智代美の眉はぴくり、と動いた。
何やら腑に落ちたらしいが、その後は無言で聞き終える。
それからしばらく香奈をじっと見つめ、小さく頷くとぼそり、と宣告した。
「呼び出して聞け」
「そそそんなっ……恐れ多い……」
「友達に恐れも遠慮も無いよ」
「……でも」
貧相な仔犬を哀れむような眼で智代美は香奈を見ると、
「少しだけ助言」
顔をぬっ、と近づける。
「……なんですか?」
そのまま香奈の耳元に口を寄せると、やや強い口調で囁いた。
「好きなら迷わず行くところまで行け」

294 :かにしのSS「Cherry Girls 後編」10 :2007/05/05(土) 01:07:37 ID:CqjiF7M90

「…………っ!」
「その道の先達からの、一言」
それだけ言って、智代美は再び影のように去っていった。
ややあって香奈は、言葉の意味に気づく。
「その道、って……違う違う違うんですっ!私は――」
どう違うのか。
…………
自分が夜な夜な何を考えて一人慰めているか、を思うと。
あんまり違わなかった。
「どうしましょう……私はどうしたらっ……でも」
いつかは、隠している理由は知ることになるだろう。
その時、栖香本人から聞かされるならまだいい。
でも、もし、他人から真実を聞くまで、自分が何も聞かされなかったとしたらどうだろう?
――そんな状況には耐えられない、と思った。
だから、智代美の後押しがあったとはいえ。
結局のところ、香奈は決断した。
それは仁礼栖香との関係において、彼女から見せた二番目の前向きな行動だった。
予報では、夜半に雨は一旦止むらしい。
それを確認してから香奈は栖香を探して、約束を取り付けた。
頷いた栖香の顔は、笑っていなかった。

夜10時半。
消灯後こっそりと抜け出し約束の場所へ行くと、既に仁礼は真っ直ぐに立っていた。
「三橋さん、消灯後の外出は違反ですよ。私を呼び出してどうなさろうと言うのですか」
香奈を見つめる栖香の眼は鋭い。
怒りではない、と思った。何かを警戒している眼だ。
「……なら、なぜ何も言わず了承したのです」
「それは……三橋さんの頼みとあれば」
……嬉しい、と言いたかったけど。
今はそこでくじけている場合ではない。
「その――相沢さんたちと放課後なにをしているのですかっ?」

295 :かにしのSS「Cherry Girls 後編」11 :2007/05/05(土) 01:08:49 ID:CqjiF7M90

「……その件ですか。怪しまれているのは承知しておりました。
残念ですが……今の段階ではお応えできません」
「どうしてですかっ」
「姉との秘密です」
予想通りの答えだった。だから、香奈は反応してしまった。
「……お姉さんが、相沢さんが大事なのはわかっています。でも」
(……私は、馬鹿だ)
彼女が怒ると判っているのに。
理性より先に、感情が言葉になってしまう。
「……私との関係は、大事じゃないんですか!」
「――そんなことは言っておりません!」
激昂。売り言葉に、買い言葉。
一瞬、赤い炎が吹き上がったように香奈は錯覚する。
ああ、怒らせてしまった。
でも、何故だろう。止まらない。
嘘で関係を塗り固めていたわたしが。
気持ちに任せたままの、生の。それが正しいかどうかは別だけど。
感情そのままの言葉を、口にしている。
「大体仁礼さんはいつも私に肝心なことを何一つ話しては――」
「何ですって!それを言うなら、三橋さんだっていつも誤魔化してばかり――」
「やるですか!」
「やると仰るのならば!」
……………………

296 :かにしのSS「Cherry Girls 後編」12 :2007/05/05(土) 01:11:29 ID:ERmTrwKW0

はあはあはあはあ。
数刻の後。
二人とも膝と両手をついて息を切らしていた。
燃料切れだった。
罵倒合戦→睨み合い→掴み合いを経て、倒れこみそうになったところで一旦離れて。
息を入れてしまった二人に、もはやもう一度喧嘩を始める気力は無かった。
まだ息を切らしながら、栖香は香奈に、香奈は栖香に問いかける。
お互い、先ほどまでの炎は既にない。
「……なぜ、三橋さんは嘘をつくのです」
「……なぜ、仁礼さんは何も言わないのです」
同時に問い、同時に互いを見る。
そして同時に、溜息をついた。
今度は香奈から喋り出す。
「……私、本当は嘘なんかつきたく無いです……だけど、仁礼さんに嫌われたくもないんです」
「わ、私だって……本当は三橋さんに全部話してしまいたいですっ。でも、お姉さま達の」
「だからってどうしたらいいんですかっ!お料理だって褒めたいけど、でもっ」
「そのぐらい!本当の事を言って下されば……そりゃ、その場では傷ついたかもしれませんけども」
「だって私は」
「そんなこと言っても私だって」
…………
再び、同時に互いを見て。どちらからともなく。
「「ぷっ……」」
思わず、吹き出した。
「仁礼さん、酷い顔になってます」
「三橋さんこそ」
「ハンカチ、使います?」
「……そうですね。お借りします」
そのまま二人は向かい合って、その場に座り込んだ。
……そして香奈は栖香に、ぽつりぽつりと語り出す。
自分の気持ちを。

297 :かにしのSS「Cherry Girls 後編」13 :2007/05/05(土) 01:12:21 ID:ERmTrwKW0

「……私は、ずっと仁礼さんを見てて、綺麗でかっこいいなあ、と思ってて」
ああ。こんな状態になって、ようやく私は。
「ずっと好きだったんです。友達に、なりたかったんです」
――言えた。
かあああああ、と栖香の顔が一気に真っ赤になる。
「わっ、私だってずっとそう思っておりましたっ!
委員長などと皆さんに仇名され、時に落ち込む事もありましたけど」
声を詰まらせながらも、一気に続ける。
「み、三橋さんがふぉろーを入れてくれた時などがしばしばあって、その都度」
――客観的に見ると、恐らく他の級友はあれはフォローになってない、と言ったであろうけど。
でも少なくとも気持ちだけは、栖香には通じていた、と。
「だから、その気持ちなら三橋さんに負けません!むしろ私が先です!」
「いいえ!私が先です!私なんて一年の最初の中間考査のときから」
「そんなことを言い出したら私など入学式のときに」
ぎゃあぎゃあぎゅいぎゅい。やんややんや。
もはや単なる意地の張り合いだった。
そして気がつけば、いつの間にか。
二人とも笑っていた。
互いの手を、握っていた。
そして、彼女たちはこの大いなる回り道を経て。
ようやっと、ルールを決めることが出来た。
「「もう、遠慮も隠し事も、無しにしましょう――」」

298 :かにしのSS「Cherry Girls 後編」13 :2007/05/05(土) 01:14:26 ID:ERmTrwKW0

さて、やや離れた茂みの奥では、いくつかの人影が彼女らに視線を送っていた。
「……何やってんだ二人とも」
(しーっ!今いいとこなんだからっ!うう……おねえちゃんは嬉しいよ妹よっ!)
(みさきちいい加減やめようよここからはもはや出歯亀だよっ!
なんかこのまま聞いてたら非常にいたたまれないんだよほら滝沢先生も止めてくださいよっ)
(ちっちっち。かなっぺ、アタシはまさにそのいたたまれない瞬間を写真に捉えたいのだよっ!
そして卒業式の日にA3サイズですみすみにばーん、と見せてあげるのだっ!)
(動機はただの悪戯ですか馬鹿ですかっ!)
(某無乳っ子みたいなこと言ってる場合じゃないよかなっぺっ。ほら録音録音!)
(かなっぺ言うなっ……って、集音マイクとデジタルレコーダー?
いつのまにこんなものまでこんなものまでぇっ!)
(……それはそうと、こんな暗いのにフラッシュなしで写真ちゃんと撮れるのか)
(だーいじゃうぶ!通販さんに借りた米軍仕様の暗視カメラでばっちりさっ!
ぱそこんの画像加工ツールを使えばまっくらやみでも天然色完全再生可能の優れものだよっ)
そこにカメラをぺたぺたと触る二組のましろい手とステレオの囁き。
((貸して♪貸して♪撮って切り貼り♪トリミングしてコラージュ♪))
(ひゃああああああ!)
(しっ……高松姉妹?)
そこにかぶさるのはまた違う娘たちの声。
まずはいつものコンビ弥生とのばら、それに加えて今日は智代美と貴美子の百合コンビもいる。
何故か貴美子は頬を染めてそわそわしながら三橋たちを見ていた。
「だけじゃないよ相沢っ!やーははは!面白いねーのばら」
(しっ!弥生でかい声ださない!気づかれちゃうよ)
(多分、もう遅いと思う)
(いえ、あの二人、お互いに夢中で全く気づいてませんわ。はあ……仁礼さんが羨ま……)
貴藤陀貴美子はどちらかというと香奈のほうが好みらしい。
(……悪戯したくなった?)
(……ふふ、冗談ですよ。私はいつだって智代美さんひとすじですわ)
(……そう)

299 :かにしのSS「Cherry Girls 後編」15 :2007/05/05(土) 01:16:40 ID:ERmTrwKW0

彼女らの後ろからぬうっと現れたのは岡本瑠璃阿。
何故か神を背中にしょっている彼女は何処となく切ない眼で呟く。
(いいなー、あの二人……)
そして背負われた千晶は。
(すかー……すぴー……)
いつものように寝ていた。
勢揃いに呆然とする奏。
(はあああっみんないますみんないますよっ)
(だーってさー。あの二人中途中から庭中に響くような声で喋るんだもん。そりゃみんな気づくっての)
(坂水でも来たら誘導しようと思って出てきたんだけどさ。滝沢先生ならまーいいかな)
((すでに骨抜き♪人畜無害甲斐性無し♪))
(同意)
(僭越ながら同意致しますわ)
(……そこはかとなく馬鹿にされているような気がする)
(むしろあからさまにと言うべきではっ)
(センセ、気にしたら負け負けっ)
この大盛り上がりからすると、なんだかんだでみんなあの二人が心配だったらしい。
(ああっ見てみてっ!決定的瞬間かもっ……)
(むむ……やれ!そこだっ!いけっ!我が妹赤い彗星っ!)
(もっと近づけ香奈ちんっ!強く激しく抱きしめあうのだっ!)
単に面白いからかもしれないが。
(……あのあの皆さんやっぱり良くないよ良くないよみさきちを止めてくださいよ滝沢先生……先生?)
(むむ……これは……いやそうじゃないぞ仁礼!その手はもっとこう……)
教師はみさきちと一緒になって熱中していた。
はああ……と脱力した彼女に、背後から静かな声がかかる。
「上原さん、お茶でもいかがですか?」

300 :かにしのSS「Cherry Girls 後編」15 :2007/05/05(土) 01:21:14 ID:ERmTrwKW0

(はは榛葉さんっ?)
いつの間に、夜闇から現れ出でたのか。
常と変わらぬ笑顔で手に持っているのは、中くらいの大きさの魔法瓶。
榛葉邑那は魔法のようにどこかから紙コップを取り出して、
「はい、どうぞ」
と奏に持たせると紙コップ目掛けてたぽたぽ、と紅茶を注いだ。
やや熱めだがコップが持てないほどではない絶妙の温度だ。
(あ、ありがとうございます……)
こくこくこく。
熱さもほとんど気にならぬ美味しさに、奏はほぼ一気に飲み干してしまう。
(はあ、結構なお手前で……じゃなくてっ!
良識ある榛葉さんまで何故このような真似をっ?)
実際、生き返るかと思うほどに美味しかったのだがそれはともかく。
「私は温室での作業が長引きまして、今引き上げてきたところですが?
なにやらこちらのほうが騒がしかったので……ちょっとした好奇心でしょうか」
至って普段どおりの口調で邑那は答える。
その落ち着いた声は、特に声をひそめずとも何故か周りに響くことはなかった。
(ではなぜわざわざ魔法瓶にお茶をっ)
「部屋でアイスティーにでもしようかと」
(……嘘です論破できないけど多分絶対嘘ですっ)
それならばこの紙コップは何故携行していたのかと問い詰めたかったけども。
それもまあ良しとして。
「……では、あの二人の決定的瞬間も?」
「ええ、楽しく拝見させていただきました。
ところで、そのお二人はもう行ってしまわれたようですが」
「え?」
振り返ると、仁礼と三橋の姿はすでに何処かに消えていた。

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