1.思い出す
「……待てよ。そういえば、昔」
「おっ」
こゆ吉が身を乗り出し目を輝かせた。
「自転車の英訳はチャップリンだと、こゆ吉は本気で信じていた」
「な!?」
「……奇怪極まる誤解だ」
萌波が顎に手を当て考え込む。誤解の理由を考えているのだろう。
俺も当時は理由が(むしろ意味が)わからなかったが、今考えるとおそらく、
チャリンコと語感が似ているせいだと思う。
などと思い出を振り返っていると、こゆ吉が真っ赤な顔で抗議してきた。
「なんでそんなことを今思い出すんだよ!?」
「いや、こゆ吉の顔が目の前にあったから」
「ユキちゃん……」
「お主……」
「わあ、馬鹿にするような目で見るな見るな見るなー!」
必死で手を振るこゆ吉。
しらばっくれられないあたりが、こゆ吉のこゆ吉たる由縁だ。
「そうは言うが、幼少の砌では仕方ないものではないか?」
「そうだよ! 子供の微笑ましい勘違いじゃんかよ!」
「いや、中学生だった。しかもbicycleを習った後だ」
「なんでそんなことだけ鮮明に覚えてるんだよっ!?」
「あ!」
と、いきなりタケルが叫んだ。
「今度はなんだ?」
「今気付いたんだけど――バイ シクルって分けたら、ちょっといやらしいわよね?」
「知るかー!」
もう何がなんだか。
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