結局タケルのことは全然覚えてなかった。ままならんなあ。
休み時間。のチャイムが鳴った瞬間、どどどどと轟音がした。
「おおっ!?」
クラスメイトどもがタケルの席に押し寄せる音だ。
非常に認めたくないが、外見だけをスライスすればタケルはそれなりの美少女だ。
人気もあろうというもの。萌波に比べれば美人度は一歩譲っても、異様なまでの
親しみやすさがそれを補っている。
「彼氏は?」
「スリーサイズは?」
「どこ住んでるの?」
押し寄せた男子からは定番の質問群が飛んでいる。
「んー」
タケルは十人近い男どもをぐるりと見渡した。そして、背後の俺に振り向くと退屈そうに言った。
「ねーカビパン」
「誰だよ!?」
俺だとすれば『カ』と『ン』以外間違えている。ちがう、そもそも根本から間違えている。
しかもそこはかとない悪意が見え隠れしている。
「黒ちゃんのことに決まってんじゃん。面倒だから、代わりに答えてくれない?」
タケルはなげやりに言った。相変わらずの超絶傍若無人っぷりだ。
「なんで俺が」
つーかタケルのスリーサイズなど知らん。
「カリスマのスリーサイズでいいよ」
「……。……父さんのスリーサイズをか?」
「誰? だから黒ちゃんのでいいって」
どうやらカリスマとは俺のことらしい。
もはや『カ』しか合ってない、もとい何もかも合っていない。
タケルのコミュニケーションの姿勢は、何かが根本的に間違っている気がする。
「……まぎれもなく、ナノです」
「あの呼吸の合い方は、ねえ」
「こいつ、一体何人に手を出しとるんじゃ」
気付くと俺へのジト目の数が数倍に増えとる。俺が何をしたというのだ。